English

キラル金属における磁気ヘッジホッグ格子

 空間反転対称性の破れたキラルな格子構造をもつ磁性体では,磁気モーメントの向きがらせん状にひねられた磁気構造がしばしば現れ,電子の運動に興味深い影響を与えることが知られている.近年,ハリネズミのハリ状のヘッジホッグと呼ばれる磁気構造が実験的に見出されているが,その安定化機構は明らかにされていない.そこで本研究では,電子の運動が生み出す高次の交換相互作用に着目した理論計算を行うことで,ヘッジホッグが周期的に配列した磁気構造が安定化するメカニズムを明らかにした.さらに,磁場を印加することによって,ヘッジホッグの対消滅に伴うトポロジカル転移を含む多彩な相転移現象が生じることを見出した.ヘッジホッグは,電子に対する有効磁場を生み出す磁気モノポールとみなすことができるため,電子の輸送現象に大きな影響を与える可能性がある.本研究の成果は,そうした創発電磁現象や新規な量子輸送現象の開拓に大きく貢献するものである.
S. Okumura, S. Hayami, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. B 101, 144416 (2020)
S. Okumura, S. Hayami, Y. Kato, and Y. Motome, JPS Conf. Proc. 30, 011010 (2020)
スピン軌道相互作用を必要としないスピン流生成

 現代社会を支える電子機器のほとんどは,電子のもつ電荷の流れである電流を用いて動作している.もしこれをスピンの流れであるスピン流に置き換えることができれば,発熱によるエネルギー損失のない究極の省エネルギー機器が実現できる.これまでのスピン流を生み出す機構のほとんどは,電子の軌道運動とスピンを結びつけるスピン軌道相互作用によるものであった.本研究では,有機化合物の分子の配向パターンに注目し,スピン軌道相互作用を必要としない全く新しいスピン流生成機構を発見した.この機構によるスピン流への変換効率は,典型物質のひとつであるPtを用いた従来の生成機構による値に匹敵することを明らかにした.我々が見出したこの新しい機構は,格子構造の対称性と単純な反強磁性から生じるため,今後様々な物質群への応用が期待できる.本研究の成果は,スピントロニクス材料研究の裾野を大きく広げ,電子機器への応用を進める画期的な成果である.
M. Naka, S. Hayami, H. Kusunose, Y. Yanagi, Y. Motome, and H. Seo, Nat. Commun. 10, 4305 (2019)
M. Naka, S. Hayami, H. Kusunose, Y. Yanagi, Y. Motome, and H. Seo, Phys. Rev. B 102, 075112 (2020)
M. Naka, Y. Motome, and H. Seo, Phys. Rev. B 103, 125114 (2021)
f電子系におけるキタエフ物質デザイン

 ボンド方向に依存した異方的な相互作用をもつキタエフ模型は,量子スピン液体を実現する新しい指針を与えている.これまでにIrやRu化合物といった5dや4d電子系においていくつかの候補物質が見出されているが,未だに物質選択の幅が限られている.そこで我々は,新たなキタエフスピン液体の舞台を探索する目的で,第一原理計算とモデル計算を駆使することで,f電子系におけるキタエフ模型の実現可能性を調べた.その結果,ハニカム構造をもつA2PrO3 (Aはアルカリ金属)において,4f1電子状態にあるPr4+イオン間に,d電子系では実現が難しい反強磁性的なキタエフ型の異方的交換相互作用が現れることを見出した.この反強磁性的なキタエフ型相互作用には,f電子系における小さな結晶場分裂と,f軌道特有の空間異方性が重要な役割を果たしていることを明らかにした.本研究結果は,候補物質の幅を広げるだけでなく,キタエフスピン液体研究の舞台を未知のパラメタ領域に押し広げるものとして重要な成果である.
S.-H. Jang, R. Sano, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. B 99, 241106(R) (2019)
S.-H. Jang, R. Sano, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. Materials 4, 104420 (2020)
Y. Motome, R. Sano, S.-H. Jang, Y. Sugita, and Y. Kato, J. Phys: Condens. Matter 32, 404001 (2020) [Special Issue on Quantum Spin Liquids]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
ハニカム原子層物質における多重ディラックコーン

 炭素原子による単層物質であるグラフェンの発見は,原子層物質科学とディラック半金属という2つの重要な新分野を切り拓いた.これらは急速に発展し,近年では,遷移金属化合物による原子層物質におけるトポロジカルな電子状態の研究が盛んに行われている.そこでは,強い電子相関のもとで電荷・スピン・軌道の自由度が絡み合い,全く新しい電子状態が実現する可能性がある.本研究では,遷移金属イオンにおけるeg電子状態に着目し,第一原理計算とモデル計算を組み合わせた理論研究により,新規物性の理論的な探索を行った.その結果,ハニカム構造をもつ単層遷移金属トリカルコゲナイド化合物において,8つの独立なディラックコーンをもつ特異な電子状態が現れ,スピン軌道相互作用と電子相関のもとでは,大きなチャーン数をもったトポロジカルな強磁性状態が生じうることを示した.さらに,ハニカム原子層物質のeg電子系では,こうした特異な電子状態を含む種々のトポロジカル相とその間の相転移が広く普遍的に現れうることも明らかにした.
Y. Sugita, T. Miyake, and Y. Motome, Phys. Rev. B 97, 035125 (2018) [selected in Kaleidoscope]
Y. Sugita, T. Miyake, and Y. Motome, Physica B: Condensed Matter 536, 48 (2018)
Y. Sugita and Y. Motome, Phys. Rev. B 99, 041101(R) (2019)
カイラル磁性体におけるソリトン格子

 結晶中のある軸に沿って右手・左手の自由度をもつ一軸性カイラルらせん磁性体では,その軸に垂直な磁場をかけることによって,らせん磁気構造が部分的にほどけ,残ったらせん部分がソリトン的に並んだカイラルソリトン格子と呼ばれる状態が発現しうる.1960年代のDzyaloshinskiiによる先駆的な研究を皮切りに様々な研究が長年行われてきたが,近年になってカイラルソリトン格子が実空間で観測され,実験と理論の両面からの研究が急速に進展している.しかしながら理論的には,格子の離散性や伝導電子の自由度をあらわに取り込んだ研究はほとんどなされていない.そこで我々は,伝導電子を含んだ一軸性カイラルらせん磁性体のモデルを考え,それに対する変分計算とモンテカルロシミュレーションによって,基底状態および有限温度の性質を調べた.その結果,実験で観測されている非線形な負の磁気抵抗効果や,磁場中でのカイラルソリトン格子の周期のロックイン現象などを説明することに成功した.これらの結果は,急速に展開する実験と理論の協働に大きく貢献する成果である.
S. Okumura, Y. Kato, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 063701 (2017)
S. Okumura, Y. Kato, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 033708 (2018)
S. Okumura, Y. Kato, and Y. Motome, Physica B: Condensed Matter 536, 223 (2018)
d7高スピン系におけるキタエフ-ハイゼンベルグ模型

 2006年にKitaevによって提案されたキタエフ模型は,厳密な基底状態として量子スピン液体を実現する理論モデルである.2009年にJackeliとKhaliullinによって,このモデルがd5低スピン状態にあるスピン軌道モット絶縁体において実現しうることが指摘され,IrやRu化合物といった5dや4d電子系が精力的に調べられてきた.しかしながら,現在までのところキタエフスピン液体の研究はこうしたd5低スピン系が主であり,その候補物質も限られている.そこで我々は,新たなキタエフスピン液体の舞台を探索する目的で,d7高スピン状態におけるキタエフ模型の実現可能性を調べた.その結果,d7高スピン状態では,d5低スピン状態と同様に,有効磁気モーメント1/2をもったスピン軌道モット絶縁体を実現し,その低エネルギー状態は,異方的なキタエフ型相互作用と等方的なハイゼンベルグ相互作用が共存したキタエフ-ハイゼンベルグ模型によってよく記述されることを見出した.本研究結果は,これまでd5低スピン系に限定されてきたキタエフスピン液体研究の舞台を押し広げるものとして重要な成果である.
R. Sano, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. B 97, 014408 (2018)
Y. Motome, R. Sano, S.-H. Jang, Y. Sugita, and Y. Kato, J. Phys: Condens. Matter 32, 404001 (2020) [Special Issue on Quantum Spin Liquids]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
3次元カイラルスピン液体転移

 カイラルスピン液体は,典型的な量子スピン液体とは異なり,自発的に時間反転対称性が破れたスピン液体のことである.この特異な磁気状態は,高温超伝導,分数量子ホール効果,フラストレート量子磁性体などと関連付けられ,これまで主に2次元系において精力的に調べられてきたため,3次元系のカイラルスピン液体についての先行研究はほとんどない.そこで本研究では,3次元に拡張したキタエフ模型におけるカイラルスピン液体に注目した研究を行った.特にここでは,9サイトループをもつ3次元ハイパーノナゴン格子上のキタエフ模型を考え,その有限温度における性質を調べた.各ループに定義されるZ2自由度(flux)に関する有効模型に対するモンテカルロシミュレーションにより,常磁性状態とカイラルスピン液体状態の間に有限温度相転移が現れることを見出した.本研究成果は,3次元カイラルスピン液体の有限温度の性質を近似のない計算で解明したものとして,今後のカイラルスピン液体研究に大きく貢献するものである.
Y. Kato, Y. Kamiya, J. Nasu, and Y. Motome, Phys. Rev. B 96, 174409 (2017)
P. A. Mishchenko, Y. Kato, K. O'Brien, T. A. Bojesen, T. Eschmann, M. Hermanns, S. Trebst, and Y. Motome, Phys. Rev. B 101, 045118 (2020) [Editors' Suggestion]
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
高いトポロジカル数をもつ磁気スキルミオン

 物質中を運動する電子がもつスピンが作る渦構造の一種である磁気スキルミオンは,そのトポロジカルな性質に守られた堅牢さや,磁場・電場に対する応答の多様性などから,新しい磁気デバイスへの応用が期待されている.これまで,磁場中で安定なトポロジカル数が1の磁気スキルミオンが精力的に調べられてきたが,応用の可能性を広げていく上で,新しいタイプの磁気スキルミオンの開拓が望まれていた.そこで我々は,磁性金属に対する基本的な理論モデルに立ちもどり,その性質を大規模数値シミュレーションによって詳細に調べた.その結果,これまで知られていなかったトポロジカル数が2の磁気スキルミオンが,磁場のない状態でも安定に存在することを見出した.さらに,従来より高いトポロジカル数を反映して,磁場によるトポロジーの多段スイッチングが可能なことも明らかにした.本研究の結果は,微小磁場による多値メモリ動作といった新しい応用へ向けた学理の確立につながることが期待される.
R. Ozawa, S. Hayami, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 118, 147205 (2017)
S. Hayami, R. Ozawa, and Y. Motome, Phys. Rev. B 95, 224424 (2017) [selected in Kaleidoscope]
反強磁性正四角台塔系の磁化過程と電気磁気応答

 空間反転対称性と時間反転対称性がともに破れた系では,しばしば電気と磁気の交差相関(線形の電気磁気効果)が現れる.そのような興味深い物性の新しい舞台として,近年合成された銅酸化物Ba(TiO)Cu4(PO4)4が注目を集めている.この物質の結晶構造は,正四角台塔型の低対称なユニットからなるため,局所的に空間反転対称性を破っている.また,銅イオンに局在する電子のスピンが低温で磁気秩序を示すことで,時間反転対称性も破れる.これらにより,四極子型と呼ばれる電気磁気効果が発現し,誘電異常が観測されている.本研究では,東京大学物性研究所で測定された磁化曲線を再現する有効理論模型の構築を行った.その結果,正四角台塔系の低対称な構造に起因した反対称スピン間相互作用(Dzyaloshinskii-Moriya相互作用)が重要な役割を果たしていることを明らかにした.得られた模型をさらに解析して温度-磁場相図を計算し,5種類の異なる反強磁性相が安定化されることを予言した.それぞれの相では異なる誘電特性が予想されることから,現在高磁場領域を含めたさらなる実験的検証が行われている.
Y. Kato, K. Kimura, A. Miyake, M. Tokunaga, A. Matsuo, K. Kindo, M. Akaki, M. Hagiwara, M. Sera, T. Kimura, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 118, 107601 (2017)
K. Kimura, Y. Kato, K. Yamauchi, A. Miyake, M. Tokunaga, A. Matsuo, K. Kindo, M. Akaki, M. Hagiwara, S. Kimura, M. Toyoda, Y. Motome, and T. Kimura, Phys. Rev. Materials 2, 104415 (2018) [Editors' Suggestion]
Y. Kato, K. Kimura, A. Miyake, M. Tokunaga, A. Matsuo, K. Kindo, M. Akaki, M. Hagiwara, S. Kimura, T. Kimura, and Y. Motome, Phys. Rev. B 99, 024415 (2019)
K. Kimura, Y. Kato, S. Kimura, Y. Motome, and T. Kimura, npj Quantum Mater. 6, 54 (2021)
加藤康之,木村健太:日本物理学会誌 73, 715 (2018)


分数化したスピン揺らぎ

 スピンの分数化は量子スピン液体が示す顕著な特徴なひとつである.スピンの分数化によって創発される分数励起は,そのタイプに応じてそれぞれ特徴的なエネルギースケールをもつ.そのため,量子スピン液体状態におけるダイナミクスだけでなく,その近傍の常磁性状態においても熱力学やスピンダイナミクスに大きな影響が現れることが予想される.そこで我々は,基底状態が厳密に量子スピン液体であるキタエフ模型に対して,有限温度におけるスピンダイナミクスの計算を行った.量子スピンが分数化して生じるマヨラナ粒子に基づいた新しい数値計算手法として,クラスタ動的平均場法と連続時間量子モンテカルロ法を開発して適用することで,動的スピン構造因子,核磁気共鳴における磁気緩和率,帯磁率の温度依存性を明らかにした.その結果,量子スピン液体近傍の常磁性状態に現れる顕著な特徴として,静的なスピン相関と動的なスピン相関が乖離する振る舞いを見出した.これらの結果は,これまで静的な物理量の温度依存性の計算ですら難しかった量子スピン液体の有限温度ダイナミクスを系統的に調べた初めての成果である.
J. Yoshitake, J. Nasu, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 117, 157203 (2016)
J. Yoshitake, J. Nasu, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. B 96, 024438 (2017)
J. Yoshitake, J. Nasu, and Y. Motome, Phys. Rev. B 96, 064433 (2017)
S.-H. Do, S.-Y. Park, J. Yoshitake, J. Nasu, Y. Motome, Y. S. Kwon, D. T. Adroja, D. J. Voneshen, K. Kim, T.-H. Jang, J.-H. Park, K.-Y. Choi, and S. Ji, Nature Physics 13, 1079 (2017)
Y. Nagai, T. Jinno, Y. Yoshitake, J. Nasu, Y. Motome, M. Itoh, and Y. Shimizu, Phys. Rev. B 101, 020414(R) (2020)
J. Yoshitake, J. Nasu, Y. Kato, and Y. Motome, Phys. Rev. B 101, 100408(R) (2010)
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
スピンの分数化によるフェルミ粒子的な励起

 量子スピン液体は,強い量子揺らぎと多体効果によって引き起こされる新奇な量子無秩序状態である.精力的な探索によりその候補物質が発見され続けているが,理論的にはその取り扱いに困難が伴うため,実験結果と直接比較可能な有限温度での理論計算はほとんど行われてこなかった.そこで我々は,基底状態が厳密に量子スピン液体となるキタエフ模型に対して磁気ラマン散乱スペクトルを計算し,候補物質のひとつであるルテニウム化合物の実験結果と比較した.その結果,散乱強度の温度変化がフェルミ粒子的に振る舞うことを見出した.この結果は,量子スピン液体の素励起が通常のスピン励起とは異なり,スピンが分数化して創発したマヨラナ粒子であることを意味している.さらに,この計算結果が10K程度の低温から室温に至る温度範囲で実験結果と定量的に一致することから,実際の物質中でも創発マヨラナ粒子がこの広い温度範囲で存在していることが強く示唆される.ここで行った理論と実験の比較は,他の量子スピン液体の候補物質にも応用可能であるため,今後量子スピン液体の実証方法として広く用いられていくことが期待される.
J. Nasu, J. Knolle, D. L. Kovrizhin, Y. Motome, and R. Moessner, Nature Physics 12, 912 (2016)
Y. Wang, G. B. Osterhoudt, Y. Tian, P. Lampen-Kelley, A. Banerjee, T. Goldstein, J. Yan, J. Knolle, H. Ji, J. Cava, J. Nasu, Y. Motome, S. Nagler, D. Mandrus, and K. S. Burch, npj Quantum Materials volume 5, 14 (2020)
プレスリリース [詳細] [UTokyo Research]
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
量子スピンの熱的な分数化

 ある磁性体が量子スピン液体状態であることを示すことは大変難しい.なぜなら,量子スピン液体は絶対零度まで対称性の破れや磁気秩序を示さないため,「悪魔の証明」と呼ばれる不在証明を迫られるからである.この困難を避けるために,量子スピン液体が示す顕著な特徴のひとつであるスピンの分数化を捉えようとする努力がなされてきた.スピンの分数化とは,本来それ以上分割できない基本的な自由度のひとつである電子がもつスピンという自由度が,いくつかに分裂したように見える現象のことである.これは,分数量子ホール状態における電荷の分数化のスピン版ともいえる.我々は,基底状態が厳密に量子スピン液体であるキタエフ模型に対して量子モンテカルロ法を適用することで,スピンの分数化が熱力学量にどのように現れるかを明らかにした.最も顕著な特徴として,分数化したスピンが大きく異なった温度領域でエントロピーを逐次的に解放する振る舞いを見出した.これらの結果は量子スピン液体の実験検証をさらに加速させるものである.
J. Nasu, M. Udagawa, and Y. Motome, Phys. Rev. B 92, 115122 (2015)
求 幸年:日本物理学会誌 72, 852 (2017)
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
カイラルスピン液体が示す有限温度相転移

 時間反転対称性が破れているにもかかわらず磁気秩序を伴わないカイラルスピン液体は,新奇な量子状態として長年精力的に研究されてきた.特に近年では,フォールトトレラントな量子計算の演算要素として期待されている非可換エニオンを実現する舞台として注目を集めている,しかし,量子計算の実現にも重要となる熱揺らぎの影響を含めた有限温度における振る舞いはほとんど調べられていない.そこで我々は,カイラルスピン液体を基底状態にもつdecorated honeycomb格子上のキタエフ模型に対して,量子モンテカルロ法を適用し,その有限温度の性質を調べた.その結果,カイラルスピン液体は熱揺らぎに対して安定に存在し,高温の常磁性状態とは相転移によって隔てられていることを見出した.また,その相転移の性質がカイラルスピン液体の素励起であるエニオンの統計性に依存していることも明らかにした.本研究の成果は,磁性物理学のみならず,非可換エニオンを用いる量子情報の分野に対しても波及効果が期待される.
J. Nasu and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 115, 087203 (2015)
プレスリリース [詳細]
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
量子スピン液体の"気液"相転移

 通常磁性体は,高温ではスピンが無秩序な常磁性となり,ある温度以下ではスピンが規則的に配列した磁気秩序を示す.前者は,物質の三態のうち「気体」に対応し,後者は「固体」に対応する.1973年にP. W. Andersonは,スピンが無秩序ながらも強い相関を保った「量子スピン液体」という新奇な量子状態を提唱した.この状態は現在もなお実験理論ともに最前線の研究課題であるが,その熱力学的性質の理論的解明は手付かずに等しい状態にある.そこで我々は,基底状態が厳密に量子スピン液体となる3次元キタエフ模型に対して,マヨラナ粒子表示を用いた量子モンテカルロ法を新たに開発し,有限温度の解析を行った.その結果,高温の常磁性状態と低温の量子スピン液体の間には有限温度相転移が存在することを見出した.また,この相転移が励起状態のトポロジーの変化として特徴付けられることも明らかにした.これらの結果は,量子スピン液体と常磁性状態の間の断熱的な接続を仮定したこれまでの実験研究に対して一石を投じるものである.
J. Nasu, M. Udagawa, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 113, 197205 (2014)
J. Nasu, T. Kaji, K. Matsuura, M. Udagawa, and Y. Motome, Phys. Rev. B 89, 115125 (2014)
J. Nasu, M. Udagawa, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 592, 012115 (2015)
プレスリリース [詳細] [UTokyo Research]
求 幸年:パリティ 30, 10月号 p36 (2015)
求 幸年:パリティ 31, 1月号 p22 (2016)
那須 譲治,宇田川 将文,求 幸年:日本物理学会誌 70, 776 (2015)
求 幸年:日本物理学会誌 72, 852 (2017)
Y. Motome and J. Nasu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 012002 (2020) [INVITED REVIEW PAPER]
求 幸年,那須 譲治:固体物理 52, 199 (2017); 53, 305 (2018); 54, 217 (2019); 57, 297 (2020)
隠れた反対称スピン軌道相互作用が引き起こす非従来型多極子秩序と非対角応答

 空間反転対称性が破れた系におけるスピン軌道相互作用は,非従来型の超伝導やマルチフェロイクスなど,多くの興味深い現象を引き起こすことから,精力的な研究対象となっている.ここで鍵となるのは,空間反転対称性の破れのもとで生じる反対称スピン軌道相互作用である.近年,反対称スピン軌道相互作用の発現には,必ずしも系の大域的な空間反転対称性の破れは必要ではなく,原子サイトにおける局所的な反転対称性の破れに伴う局所的なパリティ混成が本質的であることが指摘された.そこで我々は,こうした局所的なパリティ混成がもたらす物理のうち,特に遍歴電子系に現れる新奇な量子現象に着目した研究を行った.その結果,従来は絶縁体において議論されていたトロイダル秩序が金属においても実現し,新奇な磁気伝導や電気磁気効果を誘起することを明らかにした.また,電荷・スピン・軌道秩序による自発的な空間反転対称性の破れが,サイトに依存する形で隠れていた局所的な反対称スピン軌道相互作用を活性化し,スピン分裂を伴うバンド構造の変化や電気磁気効果をもたらすことを明らかにした.本研究は,局所的なパリティ混成による新しい電子秩序相とそれに伴う輸送・応答現象の先駆けとなるものである.
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 024432 (2014) [Editors' Suggestion]
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 081115(R) (2014)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 592, 012101 (2015)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 592, 012131 (2015)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 064717 (2015)
速水 賢, 楠瀬 博明, 求 幸年:固体物理 50, 217 (2015)
パイロクロアモリブデン酸化物におけるスピン軌道フラストレーション

 パイロクロアモリブデン酸化物A2Mo2O7は,金属絶縁体転移やそれに伴う非従来型の磁性現象を研究する格好の舞台である.絶縁体の系では,長距離磁気秩序が抑制され,低温でスピンがランダムな向きに凍結するスピングラス転移が現れる.長年,長距離秩序の不在は,パイロクロア格子上のスピン間に働く等方的な反強磁性交換相互作用による幾何学的なフラストレーションのためと考えられてきた.近年,Y2Mo2O7の単結晶サンプルを用いた中性子散乱実験において,弱い強磁性スピン揺らぎの存在が報告されたことにより,スピングラス的振る舞いの起源に関する従来の描像は再考が迫られている.我々は,スピン軌道相互作用を取り込んだ最先端の第一原理計算を行うことで,反強磁性と強磁性状態が絶縁相の基底状態として拮抗していることを見出した.さらに,局在スピン模型と多軌道ハバード模型の解析を行い,この磁気的競合が,スピン軌道相互作用を通じて軌道秩序間の競合と結合していることを明らかにした.軌道自由度起因の磁気競合というこの新しい描像は,最新の実験結果を説明する.
H. Shinaoka, Y. Motome, T. Miyake, and S. Ishibashi, Phys. Rev. B 88, 174422 (2013) [selected in Kaleidoscope]
H. Shinaoka, Y. Motome, T. Miyake, S. Ishibashi, and P. Werner, J. Phys.: Condens. Matter 31, 323001 (2019) [TOPICAL REVIEW]
近藤格子系における電荷秩序

 量子的な局在スピンと伝導電子が結合した近藤格子モデルは,重い電子系を記述する最も基本的なモデルのひとつであり,そこで現れる新奇量子相の発現可能性をめぐって研究が活発に行われている.とりわけ電子が周期的に整列する電荷秩序相の存在は,約30年前に指摘されたものの,1次元,無限次元という特殊なケースを除いて,その発現可能性は未解決問題であった.我々は,クラスタ動的平均場理論と多変数変分モンテカルロ法という二つの最先端の数値計算手法を相補的に用いることで,電荷秩序相が2次元でも存在することを明らかにした.さらにこの電荷秩序の発現には,局所的な近藤一重項の形成が本質的な役割を果たしていることを見出した.この結果は,近藤格子模型における電荷秩序相は,通常のサイト間のクーロン相互作用で誘起される電荷秩序相とは,全く異なる機構で生じていることを示している.さらに3次元系の解析も進め,この場合には電荷秩序のもとで磁気的なフラストレーションが生じ,非共面的な磁気秩序を伴うことも見出した.
T. Misawa, J. Yoshitake, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 110, 246401 (2013)
S. Hayami, T. Misawa, and Y. Motome, JPS Conf. Proc. 3, 016016 (2014)
カゴメアイスが引き起こす量子異常ホール効果

 パイロクロア格子上のスピンアイスと呼ばれる磁性体では,[111]方向の磁場の下で磁化プラトー状態が現れる.そこでは,[111]カゴメ面内において局所的なスピン相関のみをもったカゴメアイスと呼ばれるスピン液体状態が実現していると考えられている.我々は,この特異なスピン状態が伝導電子に与える影響を調べる目的で,カゴメ格子上のスピンアイス的なイジング近藤格子模型を考え,その電子状態と伝導特性を数値的に調べた.その結果,カゴメアイス状態では,磁気秩序がないにも関わらず,電子状態に電荷ギャップが開くことが分かった.またこの状態が,ホール伝導度が量子化された量子異常ホール絶縁体であることも見出した.さらに磁場を印加すると,いったん電荷ギャップが閉じ,完全にスピン偏極した状態で再び電荷ギャップが開き,ホール伝導度が別の値に量子化される.この振舞いは,2つの異なるトポロジカル絶縁体の間の相転移として理解出来ることを示した.
H. Ishizuka and Y. Motome, Phys. Rev. B 87, 081105(R) (2013)
三角格子フェリ磁性体に現れるディラックハーフメタル

 2次元物質であるグラフェンは,線形分散を伴ったディラック電子と呼ばれる電子構造が実現していることから,その応用も含めて大きな注目を集めている.しかし,スピン軌道相互作用が非常に弱いことなどから,磁性の制御という観点では困難がある.我々は,全く異なる視点から,磁性制御の容易なディラック電子の可能性を調べた.具体的には,三角格子上で局在スピンと伝導電子が結合した系を考え,3副格子フェリ磁性が存在する場合に,線形分散をもったディラック電子状態が現れることを明らかにした.また,このディラック電子状態は,完全にスピン偏極したハーフメタルな状態であることも見出した.さらに,モンテカルロ計算による熱力学的相図の計算も行い,実際にこうしたディラックハーフメタル相が実現するパラメタ領域を明らかにした.このような新しいディラック電子状態の発見は,今後のスピントロニクスの発展に大きな寄与をすることが期待出来る.
H. Ishizuka and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 109, 237207 (2012)
三角格子イジング近藤格子モデルにおける部分無秩序

 幾何学的フラストレート系の最も基本的なモデルである三角格子イジングモデルでは,最近接の反強磁性相互作用のみを考えた場合,基底状態に巨視的な縮退が生じる.この縮退が解かれることで現れる非自明な状態のひとつに,磁気秩序と常磁性モーメントが共存した部分無秩序状態がある.しかし2次元では,部分無秩序は熱揺らぎに弱く長距離秩序として安定に存在しないことが知られていた.我々は,近年見出された擬2次元伝導系における部分無秩序状態の発現に刺激を受け,伝導電子と局在スピンの相互作用が部分無秩序状態を安定化する可能性を明らかにする目的で,三角格子上のイジングスピン近藤格子モデルの熱力学的性質をモンテカルロ計算を用いて調べた.その結果,このスピン電荷結合系では2次元でも部分無秩序状態が安定に存在することを見出した.またそこでは,電子密度の不連続性による相分離や,電荷秩序・電荷ギャップの形成を通じて,電荷自由度がその安定化に積極的な役割を果たしていることを明らかにした.
H. Ishizuka and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 108, 257205 (2012)
H. Ishizuka and Y. Motome, Phys. Rev. B 87, 155156 (2013)
フラストレート伝導系に潜む隠れた多スピン相互作用

 スピンスカラーカイラル秩序に起因した異常ホール効果が注目を集めている.我々は最近,最も基本的なモデルのひとつである三角格子上の近藤格子モデルにおいて,非共面的な4副格子スカラーカイラル秩序相が1/4フィリング近傍で安定化することを見出した.しかしこれは,従来のフェルミ面のネスティングによる機構では説明がつかないもので,その安定化機構が未解明であった.そこで本研究では,スピン電荷相互作用に関する摂動を4次まで調べることで,1/4フィリングスカラーカイラル秩序相の起源を調べた.その結果,2次摂動による有効交換相互作用(RKKY相互作用)にフラストレーションによる縮退が生じ,高次の4次摂動によって系の不安定性が決まることを見出した.4次摂動に現れる様々な有効多スピン相互作用のうち,正の双二次相互作用が発散的に増大することが分かった.これは高次のコーン異常と呼ぶべきフェルミ面効果である.これらの結果は,このような非自明な安定化機構が,フラストレート伝導系に広く潜んでいることを示唆している.
Y. Akagi, M. Udagawa, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 108, 096401 (2012)
スピンアイス伝導系における抵抗極小現象

 スピンアイスと呼ばれる磁性体では,強い幾何学的フラストレーションにより長距離秩序の形成が抑制され,アイスルールと呼ばれる局所的なスピン相関のみをもったスピン液体的な状態が実現しうる.こうした特殊な空間相関をもった磁気構造と伝導電子が相互作用する系では,新しい伝導現象が期待出来る.我々は,スピンアイス的なイジングスピンと伝導電子が結合した近藤格子モデルをパイロクロア格子上で考え,その性質をクラスタ動的平均場法を用いて調べた.その結果,電子密度の低い領域において,アイスルール的な短距離相関をもったスピンアイス液体状態が実現し,局所相関の発達に応じて電気抵抗の温度依存性に極小が現れることを見出した.これは,特殊な磁気短距離相関が電子の散乱体として働くことを示しており,従来の近藤効果による電気抵抗極小現象とは全く異なる機構を与えている.これらの結果は,最近Irパイロクロア酸化物で見出されている抵抗極小を理解出来る可能性を示唆している.
M. Udagawa, H. Ishizuka, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 108, 066406 (2012)
パイロクロア反強磁性体におけるスピングラス転移とスピン格子相互作用

  多くのフラストレート磁性体では,最低温でスピンが凍結したスピングラス状態が現れる.通常,スピングラスは乱れの効果として現れるが,いくつかのパイロクロア反強磁性体では,ほとんど乱れのない良質なサンプルにおいても比較的高温でスピングラス転移が見られ,しかもその転移温度が乱れの強さにほとんど依存しない.こうした奇妙な振る舞いは従来のスピングラス理論では説明が難しい.そこで我々は,実験で示唆されているスピンと格子歪みの結合を取り入れたパイロクロアハイゼンベルグモデルを考え,ボンド長の乱れの効果をモンテカルロ計算によって調べた.その結果,スピングラス転移温度はスピン格子結合によって大きく増大するとともに,広い範囲にわたってほとんど乱れの強さに依存しない振る舞いを見出した.これは,スピン格子結合がスピンの共線性を誘起し,熱揺らぎを強く抑制するためと考えられる.得られたスピングラス転移は2次転移的で,その臨界性は従来のものと矛盾しない.これらの結果は,実験に見られる奇妙な振る舞いを良く説明する.
H. Shinaoka, Y. Tomita, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 107, 047204 (2011)
H. Shinaoka and Y. Motome, Phys. Rev. B 82, 134420 (2010)
H. Shinaoka, Y. Tomita, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 320, 012009 (2011)
H. Shinaoka, Y. Tomita, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 400, 032087 (2012)
H. Shinaoka, Y. Tomita, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 165119 (2014)
品岡 寛,富田 裕介,求 幸年:日本物理学会誌 67, 762 (2012)
三角格子強磁性近藤モデルにおけるスカラーカイラリティ秩序と異常ホール効果

 近年,スピン軌道相互作用に依らない異常ホール効果の新しい起源として,スピンのスカラーカイラリティ秩序が注目を集めている.実際,カゴメ格子や三角格子における非共面的な磁気秩序が異常ホール効果を誘起することが指摘されてきた.しかし従来の研究では,磁気秩序は手で与えられており,伝導電子との結合による影響は無視され,他の磁気秩序との相対的な安定性は議論されていなかった.そこで我々は,三角格子上の強磁性近藤モデルに対して,4サイト単位胞までの様々な磁気秩序を考慮した変分計算を用いて,基底状態相図を詳細に調べた.その結果,従来指摘されていた3/4フィリング近傍だけでなく,1/4フィリング近傍にも4副格子スカラーカイラリティ秩序相が現れることを見出した.後者は,フェルミ面のネスティングに依る前者より広いパラメタ領域で存在する.これらの相は異常ホール効果を示し,特に絶縁体状態ではチャーン数に応じてホール伝導度が量子化される.
Y. Akagi and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 79, 083711 (2010) [日本物理学会第25回(2020年)論文賞授賞論文]
Y. Akagi and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 320, 012059 (2011)
フラストレート近藤格子系における部分近藤スクリーニング形成

 伝導電子と局在モーメントが相互作用する近藤格子系における最も重要なコンセプトのひとつとして,近藤カップリングとRKKY相互作用の拮抗がある.両者の拮抗は,磁気秩序状態とフェルミ液体状態の間に量子臨界点を形成するとともに,その周辺で非フェルミ流体的な振る舞いや超伝導といった非自明な挙動を引き起こす原因になっている.我々は,この拮抗に関連した新しい量子状態の探索を目的として,格子構造に幾何学的なフラストレーションを有する近藤格子系の基底状態を,主に高精度な変分モンテカルロ法を用いて調べた.その結果,RKKY相互作用による磁気秩序相と近藤カップリングによる近藤スピン液体相の間に,磁気秩序と近藤一重項が系に混在した部分秩序状態が現れることを見出した.この新しい量子状態が,量子揺らぎや磁気的な異方性によって安定化されることや,電荷不均化を伴っていることを明らかにした.
Y. Motome, K. Nakamikawa, Y. Yamaji, and M. Udagawa, Phys. Rev. Lett. 105, 036403 (2010)
Y. Motome, Y. Yamaji, and M. Udagawa, J. Phys.: Conf. Ser. 145, 012068 (2009)
Y. Motome, K. Nakamikawa, Y. Yamaji, and M. Udagawa, J. Phys. Soc. Jpn. 80, Suppl. A, SA133 (2011)